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広島高等裁判所岡山支部 昭和31年(く)4号 決定

本籍 香川県○○○郡○○村大字○○○○○○○○番地

住居 児島市○○○○○○番地

少年 無職 吉沢儀市(仮名) 昭和十二年八月一日生

抗告人 附添人弁護士

主文

原決定を取消す

本件を岡山家庭裁判所に差し戻す

理由

本件抗告の要旨は、少年吉沢儀市は昭和三一年少第五九八号窃盗保護事件につき、昭和三十一年四月十七日岡山家庭裁判所に於て同少年を中等少年院に送致するとの決定を受けたが該処分は過重であるから之が取消しを求める、と言う趣旨であり、其の理由として主張するところを要約すれば

一、本少年は未だ常習性がない

二、本少年は能力、性格から考えて更生の見込が十分あり且つ叔父に於て手許に引取り保護更生せしめる用意がある

三、被害弁償を完済し実害はない

と謂うにある

仍つて記録を精査し、当審に於て証人F、同G、同H、同O、少年吉沢儀市を取調べた上其の供述内容を綜合して考察すると少年は意思薄弱で自己の慾求感情に対する意思的制御力に乏しく適応性、持続性に欠け、飽き性であり且つ本件犯行当時は母親の少年に対する監督不行届の為少年の放縦性に起因することが窺われる。

然しながら本件犯行後母親に於て其の非を悟り、被害弁償に奔走して被害を弁償すると共に少年の本籍地に居住せる亡父の実弟たるFに於て少年を其の膝下に引取り厳重なる監督の下に適応せる正業に就かしめ、母親の実弟Gと共に責任を以て指導監督する旨確約し且つ其の熱意あることが認められるので、少年院に収容しての強度の矯正教育は必ずしも必要とは認められず、叔父両名に於て弛まざる慈愛観護と環境の整理に依り更生の途につかしめるが刑政上の一途と思考せられる。

従つて本件抗告は理由があるので少年法第三十三条第二項に依り原決定を取消し本件を岡山家庭裁判所に差戻すこととし主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 有地平三 裁判官 宮本誉志男 裁判官 浅野猛人)

別紙一(原審の保護処分決定)

少年 吉沢儀市(仮名) 昭和一二年八月一日生 職業 無職

本籍 香川県○○○郡○○村大字○○○○○○○○○番地

住居 児島市○○○○○○番地

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

少年は、

一、昭和三〇年九月中旬頃の午後三時頃児島市○○○○○番地A方において、同人所有にかかる背広上衣一着、冬オーバー一着(時価合計九、〇〇〇円相当)を窃取し

二、同年一一月二三日午前一〇時過頃児島市○○五二五番地B方西側物干において、同人所有の男子用セーター一枚(時価二、〇〇〇円相当)を窃取し

三、昭和三一年二月二六日頃の午前一〇時三〇分頃児島市○○一、一〇〇番地C方において同人所有の餅三貫匁(時価四五〇円相当)を窃取し

四、Sと共謀の上、同年三月一八日午後七時三〇分頃、児島市○○所在○○港内において同所八六五番地D所有に係る錨一ヶ(時価一〇〇円相当)及び所有者不詳の錨一ヶを窃取し

たものである。

少年の前記一、二、三の各所為はいづれも刑法第二三五条に、四の所為は同法第二三五条、第六〇条に夫々該当する。

少年は知能低劣、意思薄弱で自己の欲求感情に対する意思的制御力に乏しく適応性、持続性に欠け飽き性でありお人好の面がつよく被影響性が大である。

家庭は父親は少年一二才の時不慮の死を遂げ唯一の保護者である母親は無知、無教養で少年の姉妹と共に少年と離れて他の男と内縁関係を結び同棲中であつて少年は自宅に一人寝起きしている有様で現在の分裂状態にあるふしだらな家庭や保護能力のない母親の許では環境的な不純さもあつて到底少年の更生は望み得ないし少年を託し得る適当な社会資源も見当らない。

以上の事情を綜合した結果少年を改善更生せしめるためにはこの際施設に収容して矯正教育を施すを相当と認め少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項に則り主文の通り決定する。

(昭和三一年四月一七日岡山家庭裁判所裁判官 多田義雄)

別紙二(試験観察決定)

少年 吉沢儀市(仮名) 昭和一二年八月一日生 職業 無職

住居 児島市○○○○○○番地

保護者 吉沢カツ四〇才

続柄 実母 職業 無職

住居 児島市○○○○○○番地

主文

少年を家庭裁判所調査官国安忠志の観察に付する。

期間

自昭和三一年七月二〇日至昭和三一年一二月一九日

遵守事項

一、伯父F(香川県○○郡○○村○○○○番地)の許で真面目に漁業に従事すること

二、転居、転職をする場合には当裁判所に予め連絡すること

(昭和三一年七月二〇日岡山家庭裁判所裁判官 三宅卓一)

別紙三(差し戻し後の保護処分決定)

少年 吉沢儀市(仮名) 昭和一二年八月一日生 職業 工員

本籍 香川県○○○郡○○村大字○○○○○○○○○番地

住居 児島市○○○○○番地E方

主文

少年を岡山保護観察所の保護観察に付する。

理由

少年は

一、昭和三〇年九月中旬頃の午後三時頃児島市○○○○○○番地A方において同人所有の背広上衣一着、冬オーバー一着を

二、同年一一月二三日午前一〇時過頃児島市○○五二五番地B方西側物干において、同人所有の男子用セーター一枚を

三、昭和三一年二月二六日頃の午前一〇時三〇分頃児島市○○一、一〇〇番地C方において同人所有の餅三貫匁を

四、Sと共謀の上、同年三月一八日午後七時三〇分頃同市○○所在○○港において、同所八六五番地D所有の錨一個及び所有者不詳の錨一個を

窃取したものであつて、その所為はいずれも刑法第二三五条(共謀の点については同法第六〇条も適用)に該当する。

少年の処遇について考えるに、少年は資質的に知能低劣、意思薄弱で自己の欲求感情に対する意思的制御力に乏しく適応性、持続性に欠け、被影響性も大であり、家庭環境は実父が少年一二才のとき死亡し、母は無知、無教養で他の男と同棲して居り保護能力は皆無である。少年を引取り監督するとゆう伯父Fは家庭不和で妻と離別し、家計も貧困で少年を保護する能力なく、他に適当な社会資源も見当らない。しかし少年は現在伯母の家に下宿し、被服工場に勤務し、独力で曲りなりにも生活し、試験観察期間中これとゆう非行は見当らないが、成績は良好とはいえず、将来少年の資質家庭環境に照らし再犯の虞れがないとはいえない。

よつて少年に対しては少年法第二四条第一項第一号少年審判規則第三七条第一項に則り主文のとおり決定する。

(昭和三一年一一月二八日岡山家庭裁判所裁判官 三宅卓一)

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